オゾンの酸化還元電位

 オゾンは水中においては次のように解離することが知られている。
フリーラジカルHOとHO2は大きな酸化電位を持ち、属塩や有機物とすぐ反応する。分子状のO3フリーラジカル及びその他の酸化剤の酸化還元電位を表に示す。この表からわかるように、酸化処理については特にOHラジカルの役割が大きい。しかし、殺菌効果、脱臭、脱色及び漂白効果は分子状による直接酸化であるので、食品及び食品工場のオゾン処理では後者の役割も重要である。すなわち、オゾンの直接酸化反応は活性酸素原子に由来するものであるが、一般には急速に起こりうるがこれはオゾンが高い酸化還元電位(E0=2.07V)を有するからである。また、水に溶けたオゾンの一部は分解してフリーラジカル(OH)を形成し、これが水中に存在する有機物及び無機物と非常に急激に反応し、これを酸化する。これをオゾンの間接酸化反応という。

酸化剤の酸化還元電位(Volt)

オゾンの分解と酸化力
 オゾンの分解はOHフリーラジカル形成に好郁合な高いpH値において促進される。水中におけるオゾンの分解速度のpH依存性を測定した結果、pHの上昇に伴いオゾンの分解速度が増大し、OH~イオンがこの反応に関与している。このように水中オゾンの安定性はpHに大きく依存し、pHが6付近から上では、pHの上昇につれて分解速度が急激に高くなることが知られている。
  当然、pHの異なる水中におけるオゾンの微生物殺菌機構も異なることになる。
● 低pHにおけるオゾンの反応はオゾン自体が酸化の主体となり、比較的オゾンと反応しやすい成分との酸化反応が主体となる。
● 高pHにおけるオゾンの反応はオゾンが水に溶け分解するときに生成するOHラジカルによる反応が主体であり、より強い酸化力を示す。

  低pHにおけるオゾンの反応は、オゾンが強力な親電子試薬であり、分子中に二重結合のような不飽和結合都や電子密度の高い部分を攻撃する。それゆえ、オゾンは不飽和結合の切断、電子供与基を持つ芳香族化合物酸化や、硫化物やアミン類のような親核性原子を持つ分子の酸化には有効である。このため殺菌、脱臭、脱色、滞白では、いくつかの共役した不飽和結合を持つものがオゾンに有効となる。
  高pHにおけるオゾンの反応はオゾンの自己分解が顕著になるが、その過程で活性の強いOHラジカルの生成があり、それが酸化反応の主体となる。このため通常の酸化では分解されないものを分解する強力な酸化力を発揮する。、この反応は光照射によるオゾン処理や過酸化水素添加オノン処理にもみられる。このOHラジカル生成による反応では、比較的低分子の飽和有機化食物の分解も可能であり、アルコールや有機酸の分解も可能である。

二重結合(C=C)へのオゾン水の反応
オゾンの殺菌機構
 細菌細胞の構造は、中央部に遺伝情報の機能を司る染色体があり、その外側にたんぱく質と脂質からなる柔らかい細胞膜があり,さらに外側こたんぱく質、多糖、脂質からなる細胞壁が取り巻いている。これらの膜、壁の厚さは約10nmである。
  細菌に対する殺菌作用機構は、オゾン直接あるいはオゾンと水分等に反応してできたOHラジカルが、この硬い細胞壁を酸化破壊を引き起こすことから開始される。
  このようにオゾンによる殺菌は、溶菌と呼ばれる細菌の細胞壁の破壊や分解によるものといわれ、塩素が細胞壁、細胞膜を通過して酵素を破壊する機構とは全く異なる。
  このため大腸菌の生存率をオゾンまたは塩素濃度でプロットしてみると、塩素は濃度が増加するごとに殺菌力が増加するカープを描いたが、オゾンはある一定の濃度に到達して急激に殺菌力を示す特徴がある。

  細菌細胞壁はグラム陽性菌とグラム陰性菌とでは全く異なっている。
  グラム陽性菌の細胞壁はタイコイン酸(20~50%)、たんぱく質、ペプチドグリカン(50~80%)、リボタイコイン酸からなり、グラム陰性菌はリボ多糖及びたんぱく質(80~90%)、ペプチドグリカン(10~20%)から構成されている。

  グラム陰性菌は陽性菌に比較してオゾンにより酸化しにくいペプチドグリカン層が薄いため、陽性菌に比較してオゾン殺菌は極めて容易である。このように細胞表層構造の相違が原因して、オゾンに対する感受性に差異が生じるから、オゾンによる殺菌機構もー般的に論じることはできない。
  オゾンによる殺菌機構は、抗生物質、抗菌剤、化学療法剤のような細胞内の特定の場所を阻害する作用とは異なり、細胞表層成分の酸化分解の結果起こる細胞の損傷、破壊作用のような構造的なものである。このような作用を受けやすい細胞表層構成成分は、細胞壁(特にグラム陰性菌)中に存在するリボたんぱく質、リボ多糖や細胞膜中に存在するリン脂質、リボたんぱく質、リボ多糖、細胞質膜や細胞質内に存在する酵素たんぱく質、補酵素成分成分及び核酸である。

  微生物の殺菌を塩素によって行った場合、塩素は微生物の細胞壁を通過し、酵素が損傷を受けて死滅する。またメチシリンに代表きれるβ-ラクタム系の抗生物質による殺菌は、細胞壁合成酵素の活性部位にこの抗生物質が結合して,細胞壁合成を停止させるという機能破壊である。
  オゾン殺菌では、オゾンが微生物の細胞壁等の表層を構造的に破壊あるいは分解することにより細胞透過率が変化し、酵素の活性が失われ、核酸が不活性化されるものと考えられる。

  即ち、最初の細胞表層のたんぱく質または脂質を酸化しながら細胞壁等の機能を構造的に破壊し、オゾン負荷量が多ければさらに易反応性の官能甚と反応して中に侵入して、酵素等を破壊していくのである。

  薬剤殺菌が一つの機能を破壊していくのに対し
オゾンはマルチポイント攻撃である。このため耐性菌ができにくい殺菌方法であると考えられる。
  オゾン水が食品等に利用される中性域における溶存オゾンの主たる反応形式は分子状オゾンの反応である。したがって微生物の細胞壁や細胞膜の構成成分である脂質との反応が生じる。
  まず分子状のオゾンは不飽和結合に反応し、生成した過酸化物のフリーラジカルの生成が始まり、さらに連鎖反応が始まる。同時に微生物細胞壁や細胞膜の構成成分であるたんぱく質こも反応が生じる。オゾンと蛋白質との反応を考える場合は、具体的にはオゾン易反応性アミノ酸残基(トリプトファン、メチオニン、フェニールアラニン等)との反応を意味する。さらに負荷量が多いと.中に侵入し核酸と反応する。とくにグアニンやチミンとの反応性が高い。